2016年春に実写映画化されることが決まった漫画アイアムアヒーロー。
主役はなんと35歳の冴えないおじさん。
世界は、人類は滅亡へと近づいていく中で、彼はその個性で見事に生き抜いていくというサバイバル物語です。
■歳の差を縮める交渉術
35歳のおじさん、「鈴木英雄」は売れない漫画家で、アシスタントをしてなんとか生活する毎日です。
そんなある日を境に世界に謎のウイルスが出現し、感染した人間はゾンビのようになって自我を失い、生きている人たちに襲い掛かります。
鈴木はなんとか東京を切り抜けて山梨県へ。
富士山のふもとの樹海に逃げ込みます。
そこで偶然生き残っていた女子高校生と出会い、共に手を取り逃げ回るのです。
明らかに35歳の社会人である鈴木に主導権があるのですが、あらゆることに自信を持てない鈴木はどうしていいのか選択をできません。
そのときの名シーンがこれです。(4卷)
「35歳だからってね、全員が社会経験豊富だって限らないだよ。人はどれだけ生きたかじゃない!どう生きたかだろ!?」
という言い訳をして選択の責任から逃げようとするのです。
情けないことこの上ないのですが、それが逆に歳の差のある二人の距離を縮めます。
女子高校生は呆れ返って笑い出します。
極度の緊張と恐怖の中で女子高生は身近な存在に鈴木を感じるのです。
笑わすのではなく、笑われる。
男として決してかっこいいことではありません。
むしろ恥じるべき行為ですが、鈴木は開き直ったようにそれができるのです。
そしてそれが女子高校生に心の余裕を与えます。
社会人になると毎年新しい新入社員を迎えます。
歳の差は開く一方です。
私はもはや親子ほどにも歳が違ってきています。
その世代とどう心を通わせていくのかと考えたとき、あえてこういうスタイルもありだなと感じました。
隙を開けっ広げにすることで、新人たちの肩の力を抜き、引っ張って行ってもらおうという受け身の姿勢を崩します。
自分も積極的にプロジェクトに参加し、選択しなければならないという覚悟も持たせることができます。
男としてとか、上司としてとか、年配者としてと、こちらが必要以上に構えると、自分に必要以上のプレッシャーをかける結果にも繋がります。
自分も若いひとたちも、お互いに力を発揮するには実に良い環境なのではないでしょうか。
その環境を作るキーワードが「かっこつけない」です。
■日々、力を発揮するような工夫も必要
反面教師的なシーンが多いのもこの漫画の特徴です。
鈴木の先輩で同じように売れない漫画家で、アシスタントをしている先輩が、この新しい危機的な環境で妙に生き生きとしています。
そしてすぐにゾンビに襲われ命を落とすのですが、そのときの名シーンがあります。
鈴木の先輩のセリフです。(2卷)
「正直さ、ずっと生きづらかったんだ。生まれて初めて・・・その、生きてる感じがした。君も同じだろ?」
先輩は、最期の時を迎え、この環境になって初めて生きている実感を持つのです。
こうはなりたくない。
そんな感想につきます。
で、あれば平凡な日々の中でやれたことがもっともっとあったはずです。
現実に妥協し、変化を恐れて日々を過ごしていてもストレストと無力感は募る一方です。
日々を新鮮に感じ、工夫することで、毎日を価値あるものにできるのではないだろうか、と考えずにはいられません。
サバイバルという世界が人間の本質をむき出しにします。
個人の価値観が如実に表に現れるのです。
この時、自分ならば何ができるのだろうかと自らに問うことで、今、現実に何ができるのかを考えることができるストーリー展開になっています。
ぜひ一度読んでみてください。
今までとはまったく逆の視点や価値観を持てるはずです。