高橋よしひろ先生の名作「銀牙―流れ星 銀―」。
主役は秋田犬の子犬、銀です。熊を追い狩る熊犬として最適な適性を備えているという虎毛で生まれました。
この熊犬の銀が成長し、巨大な人食い熊、赤カブトを倒していく物語になっています。
物語の中盤以降は犬同士の話ですが、前半は人間との係わりをとても重要視して描かれています。
今回は前半のお話を中心にお伝えしていきます。
スタートは早い方がいい
マラソンは「よーいドン」で始まります。スポーツ競技はそうです。
しかし、人生の中で何かを始める時、何かを目指すとき、号令などはありません。人生はいくらでもフライングがOKな世界です。
つまり他人よりも早く始めたほうが有利なのです。
そしてその訓練にも限界など決まってはいません。いくらでも練習をしていいのです。他人よりも過酷な訓練をしたほうが有利になります。
銀は生後一ヶ月で村の名物猟師である竹田五兵衛に強引に引き取られます。
この竹田こそが、赤カブトを仕留めようと日々熊犬を引きつれ山に向かう赤カブトの天敵です。
左耳は以前に受けた赤カブトの一撃で削ぎ落とされています。
この時、赤カブトも右目に武田の銃弾を受けていました。そして中枢神経がいかれて冬でも冬眠をせずに人間を狙うのです。
竹田の熊犬の育て方はまさに鬼です。
通常の犬は生後二ヶ月までは母親のもと、兄弟と共に育ち社会化を身につけます。
他人の手に渡るのも基本は生後二ヶ月以降になります。
しかし竹田は生後一ヶ月で母親から引き離し、自分の家で育てるのです。
銀の素質は竹田が見抜いた通りでした。
耳元で銃声がしても驚くよりも好奇心が勝ります。銀の父親ですらその音に慣れるのに一年かかっています。つまりとてつもない強い肝を持っていることが証明されたのです。
竹田は銀を熊犬に育てるべくあらゆることを徹底します。
食事は熊犬の成犬でも怖がって口にできないという熊の生肉。臭いが強烈なのです。
それ以外の餌は一切与えません。
二日絶食した三日目、銀は生きるために熊の生肉を口にします。
こうして熊への闘争心を高めていくのです。
やがてその餌すら水の中に沈められ、潜らねば食べられなくなります。
犬は呼吸を止められないのでかなりキツイはずですが、日々少しずつ水の量を増やしていっても銀は対応していきます。
スタートと訓練の差
生後四ヶ月になったころにはもう母親に甘えることさえ忘れてしまっています。
同じ生まれの兄弟たちに久しぶりに再会すると、簡単に首に噛みついて投げ飛ばします。
わずか三ヶ月間で凄まじい成長ぶりです。
死線ギリギリまで追い込まれて鍛えられている銀は、もともとの虎毛の素質と相まって立派な熊犬に育っていきます。
やがて人間のもとを離れた銀は、赤カブトを倒そうとする野犬の群れに加わり頭角を現し始めるのです。
そのときもやはり幼いころから訓練してきたことが活きて、誰よりも強くなります。
それは群れの新しいリーダーの誕生でもありました。
ビジネスでも同じことが言えるでしょう。
横一列に並んで、よーいドンなどありえません。
プロジェクトが始まる前から勝負はスタートしています。
もっと言えば会社に入社する前から上の目標を目指してスタートをきっている者もいるのです。
そしてこれから迎えるであろう本当の国際競争に向け、グローバルな力を訓練していることでしょう。
中国もインドも徹底した英才教育を始めています。
日本はどうなのでしょうか。
自分自身で見つけた夢や目標、それは当然大切なことです。
しかしそれを見い出すまでの期間の鍛え方はこれでいいのでしょうか。
インドや中国に負けない人材の育成には竹田ぐらい強引で強烈なものが必要なのかもしれません。